パソコン絵画作品のエピソード(2)

はじめに

この記事では作品#3「 桂林の柳」、作品#4 「黄山からの眺め」と作品#32 「雲海に浮かぶ黄山」の3作品についてのエピソード(制作の動機・背景、モチーフ、制作過程など)を詳しくご紹介します。

作品#3「桂林の柳

作品#3は面白い形をした桂林の山々を背景にして川と柳を描いたものです。

中国の桂林は世界有数の風光明媚な観光地です。

昔から多くの知人に中国へ行く時には必ず桂林に立ち寄るように強く促されてきました。実際たくさんの画家を魅了し、特に水墨画の世界では中国の黄山と共にモチーフとして欠かせない場所になっています。

初めて桂林観光の機会を得て桂林市内のホテルに到着して驚いたのは、ホテル前から見渡した360度の遠景に桂林独特のこんもりと盛り上がった山々がたくさん見えました。

あのような独特の面白い形の山々の風景は桂林名物の川下りだけで眺められるものだと勝手に思い込んでいました。実際には桂林市内を取り囲むようにその地域一帯がそのような山々の風景を形作っていました。霞に浮かぶ姿はなかなか風情ある景色でした。

有名な桂林の川下りは漓江という川を船で下るものです。「桂林の山水は天下に甲たり」の名句が示すように、両岸には様々な形をした山峰が聳え立ち、青い水と緑の山々が織りなす素晴らしい景色が延々と続きます。

多くの場合は比較的大きな遊覧船に乗って、船上で昼食をとりながらゆっくりと観光を楽しみます。船から川面を見下ろすと手漕ぎのボートや竹筏のようなものに乗ってのんびりと川下りを楽しんでいる観光客も見うけられましたが、エンジンの騒音もなく、また排気ガスを出すこともないのでこちらの方が自然環境にはとても良いのではないかと思いました。

川下りは所要時間が4~5時間ほどもかかりますので、両側の絶景を写真撮影する時間はたっぷりとあります。

下にこの時に撮影した風景写真をいくつか掲載します。

上の写真では大型遊覧船に混じって小型の竹筏のボートがたくさん川下り遊覧をしています。

   

漓江下りでは上のような独特の美しい風景が川に沿って延々と連なっています。

   

左上は漓江下りの中で最も有名な風景です。この絶景は右上の写真のように中国の20元のお札のモチーフにもなっています。中国旅行中に色々なところで見かける水墨画でもここの景色を描いたものがよくあります。

漓江下りの観光の後、近郊にある桂林世外桃源郷もゆっくりと観光しました。ここは「少数民族の桃源郷」を主題にしたテーマパークで、自然の湖沼や洞窟、奇峰に囲まれた風光明媚な景観を誇っています。桂林周辺に古くから住む少数民族の独特の建物や暮らしが再現され、祭りの踊りなども披露されていて興味深い観光スポットになっています。

さて作品#3ですが、漓江下りで遊覧船から見た風景ではなくて、実は世外桃源郷の遊覧船から見た風景をモチーフにしています。

上の写真がそのモチーフとした風景です。この写真と作品#3を下にあらためて並べて掲載します。

   

この景色を選んだのは、桂林の独特の山々と川だけでは構図的に少し面白みに欠けますが、左上の写真に見られるように川べりに並んだ柳の木があれば良いポイントになるのではないかと考えたからです。また実際に遊覧船ですぐそばを通過した時には柳の枝がそよ風にゆっくりと揺れてとても良い感じでした。

作品では桂林の面白い形の山々は写真のものよりもよりくっきりと鮮やかに描写しました。さらに柳の木などが水面に映り込む倒景もより鮮明に表現しました。これらのことによって作品がより印象的で面白いものになるように工夫しました。なお、写真に写っていた遊覧船は省略しました。

作品を見て分かるように近くのものはより細かく鮮明に描き、一方遠景では緑でも少し青みがかった色になるように変化させています。この色彩の変化で表す遠近法はレオナルド・ダ・ヴィンチのモナ・リザの絵でも使われています。また最も気を付けて丁寧に描いたのは川べりに並ぶ柳の木です。柳のしなやかな柔らかい表情を出すのに苦労しました。

ちなみに中国では、池や湖、川などの岸辺には好んで柳が植えられています。中国の庭園や公園などの風景の構成要素としてはゆっくりと風になびく柳のやわらかい風情は欠かせないものになっているようです。

漓江下りで見た絶景もまたいつか改めてパソコン絵画として描きたいと思っています。

作品#4「黄山からの眺め」

この作品は中国の黄山を初めて訪れた時に、黄山の頂上付近にある遊歩道の見晴らしスポットから眺めた景色を描いたものです。

黄山は中国随一の名山と呼ばれ、奇松、奇岩、雲海、温泉を黄山の「四絶」として称えられてきました。そのため黄山の四季折々に変化する絶景に魅せられて古来より多くの画家を引き付けているとのことです。黄山も桂林と同じように特に中国では水墨画のモチーフとなることが多いようです。

団体ツアーで初めて黄山を訪問した時には山頂に2泊したっぷりと黄山を見て回ることができました。宿泊した次の日は丸一日観光ということでまず午前中にはガイドさん案内による見所を歩いて巡る観光がありました。

午後はコーヒータイムを取りながら近傍を軽く散策するグループと、黄山の奥のさらに険しい遊歩道をしっかりと歩くグループに分かれることになりました。

私はパソコン絵画の参考にするためにたくさんの写真を自由にゆっくりと撮りたいと思い、現地ガイドさんに許可をもらってグループと別れて単独行動をとることにしました。

午後1時半頃から午後7時頃まで自分が行きたい遊歩道を歩き回り、要所要所でじっくりと写真撮影を楽しみました。

黄山の遊歩道はいくつもの谷間を巡って縦横に整備されていて、中には数百メートルもの谷底に転げ落ちそうで思わず足がすくんでしまうような急な階段もいくつかありました。そのような場所は観光客も少なく、そこでは皆両手をついて這いつくばって小さな階段を降りたり登ったりしていました。

ところで観光地でひとりで歩き回っているととにかく色々な人に話しかけられます。多くは国内旅行で来た中国人ですがカメラのシャッターを押してくださいという依頼がほとんででした。それ以外でなにやらべらべらと中国語で話しかけてくる人もいましたが、その時には中国語で「我不会说汉语」(私は中国語が話せません)といって切り抜けました。

中国人観光ツアーの中国人のガイドさんからも今歩いてきた遊歩道についてその様子を聞かれたこともあります。近くにあった観光案内地図を指さしながら私のつたない中国語で簡単に説明したこともあります。また遊歩道散策から戻る時にドイツ人らしき男性にも遊歩道の様子について尋ねられました。

約5時間半の一人だけの十分な時間がありましたので絵画の参考になりそうなたくさんの写真を撮りましたがそのごく一部を掲載しておきます。

   

黄山は白っぽい岩肌と標高800m以上に生息し岩の割れ目に沿ってたくましく根を張る黄山独特の「黄山松」の風景が特徴的です。

上の写真は黄山第一のビューポイントです。

   

上の写真のように太陽の光が斜め横から当たると荒々しい岩肌がより一層強調された迫力ある景色になります。

   

黄山の山肌に沿って縦横に張り巡らされた遊歩道は予想以上に綺麗に整備されていて、所々に石の椅子などが置かれた簡便な休憩エリアが設けられていますので健脚でなくても一人で気軽に散策することができます。

岩と松が競演する風景は歩くたびに色々と変化し周りの景色を眺めていて飽きることはありません。どこを切り取ってもまさに絵になる絶景が続いています。

さて作品#4「黄山からの眺め」は下の写真の風景をもとにして描きました。ここも見晴らしの良い有名なビューポイントの一つになっている場所です。

観光した当日は遠くに薄い霞がかかっていて上の写真のように黄山と霞に浮かぶ山々の姿が面白かったのでこの風景を選びました。ちなみに霞に浮かぶ美しい風景は他にもあり、例えば下のような風景にも出くわしました。この場所も簡単な鉄柵がある展望台風のエリアが設けられていて有名なビューポイントになっていました。

パソコン絵画の元にした写真と#4を改めて下に並べて掲載します。

   

作品ではまず全体的に写真の風景よりも明るく緑がかった色彩で描きました。黄山松や山の形と大きさは写真にかなり忠実に描いていますが、遠景に浮かぶ山々はその数を敢えて多くして面白みと迫力を加えました。

この絵で工夫が必要だったのは岩肌と霞の描き方でした。

左側の断崖の岩肌は簡単に描くとまるで子供向けアニメの絵のようなのっぺりとした薄っぺらい感じになってしまいますので、岩の割れ目、筋、窪み、しわ、色や光の変化など丁寧に描く必要がありました。

また霞の描き方には色々な手法があると思いますが、ここではまず初めに霞が全くない状態の山々を描き、その上にボケが効いた絵筆(Painterのデジタル絵筆)を使って白色で霞をかぶせていきました。筆圧をうまくコントロールするとそれなりの霞をうまく描くことができました。空の雲を描くような感覚とほぼ同じです。

作品#32 「雲海に浮かぶ黄山

この作品は黄山の絶景をイメージして想像で描いたものです。そのためこの作品の直接的なモチーフになった風景は現実には存在しません。

黄山では冬になると美しい黄山雲海が見られるそうです。今回黄山を観光したのは夏でしたので残念ながら雲海は見ることができませんでした。

下の写真は黄山の夕暮れの日没の風景(左)と早朝の日の出の風景(右)です。両方ともに霧や靄がかかっていて幻想的な風景になっています。

   

上の2枚の写真などをイメージしながら想像で描いたのがこの作品#32です。朝焼けでオレンジ色に輝く広大な雲海に黄山の山々の頂がいくつか顔をのぞかせている様子を自分の好みの構図で描きました。朝日は左側から登ってきているという想定です。

この作品の左下付近に描いた枝ぶりの良い大き目の黄山松は下の写真の松を参考にして描きました。

このように作品の一部だけを実物に基づいて描くのも面白いと思います。

この作品で最も難しかったのは広大な地域に広がる雲海の表現でした。雲がびっしりと谷間を埋め尽くしてゆっくりと風に流されていくような様子を描きたいと思いました。黄山松は5種類の基本形をもとに少しずつ変化させて距離に応じて大きさを変えながらたくさん描いていきました。

実際に私が見てみたいと思うような黄山の雲海の絶景のイメージがそれなりに描けたのではないかと思っています。

黄山は描きたいと思っている景色がまだまだ迷うほどたくさんありますのでまた時間を見つけて挑戦したいと思っています。

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