はじめに
中国語の面白いところは、日本語に似ているようで似ていない、また似ていないようで似ているという微妙なところです。
このブログでは、私が学習していく中で気がついた中国語の面白いところをピックアップしてご紹介しています。
なおこれ以降、日本語は ’ (シングルクオート)で囲って、一方中国語は ”(ダブルクオート) で囲って区別して表すことにします。
中国雲南省・羅平のカルスト地形と菜の花
日本ではあまり見かけない漢字「之」
’之’という漢字は日本では現代ではあまり使われていませんし、普段はなかなか見かけません。人名漢字にはありますが常用外漢字なので学校では習わないということです。
まず日本語の辞書を調べて見ると次のようになっています。
[意味]
- ゆく、いたる、おもむく
- これ、この - 人・物・事を指示、強意の意味
- の - 主格や修飾の関係を表す
[読み]
- 音読み:シ
- 訓読み:これ・こ(の)・の・ゆ(く)
古文を除けば、現在ではほぼ地名、人名に限って使われています。
「之」を使った地名の例
山之内、池之原、一之宮、井之口、神之木台、城之崎、下之郷、中之島、堀之内など
日本全国に多数存在しますが、ほとんどが「之」を「の」と訓読みしているようです。
「之」を使った人名の例
[姓]:下之園、山之内、井之川、二之宮、城之内など
’之’を使った地名が全国にたくさんあることからそれが名字になっている例も多いようです。
[名]:隆之(たかゆき)、健之(けんじ)、真之介(しんのすけ)、雪之(ゆきの)、奉之(ほうし)など
名で使っている’之’の読みはさまざまで、「ゆき」、「の」、「し」、「じ」などがあるようです。「し、じ」は音読みから、「ゆき、の」は訓読みから来ているのでしょうか。
中国語の漢字「之」
一方現在の中国語の”之”は上で見た日本語よりももっと広く使われています。
まず中国語の辞書情報を確認してみましょう。意味は日本語の’之’と大枠は似ていますが、助詞「の」としての用法が多岐にわたっています。
[意味]
- ゆく、いたる - 動詞
- これ、あれ - 代詞
- の - 助詞
上の意味のうち1,2は昔の書き言葉です。現在使われているのは3の助詞として、下のような用法で主に書き言葉として使われています。
- ~の~(所有を示す)
- ~の~(場所、時間、所属・属性を示す)≒”的”
- ~の~(~”之”+単音節方位詞の形で時間、場所、位置、範囲を限定する)
- ~の~(~+”之辈・之类・之列・之徒・之众”などの形で’たぐい・部類・徒・衆・連中・やから’を示す)
- ~の~であることは~(主語+”之”+述語の形で使う)
- 文中に”的”が重なる場合に明確化のために”之”を併用する
- そんなに、こんなに(数量詞[名詞」+”之”+単音節形容詞の形で使う)
- ~の中の一つ(人)(~”之一”の形で使う)
- ~分の~(~”分之”~の形で使う)
[読み] ジー(そり舌音)
「之」の中国語と日本語の比較
「之」の発音(読み)については中国語が「ジー」です。日本語は、地名や姓ではほとんど「の」の読みですが、姓名の名のほうに一部「シ、ジ」の読みが使われています。「ジー」と「シ、ジ」はかなり発音が似ているように思えます。
「之」の意味については、日本語での地名や姓の「の」は、中国語の助詞の用法の2,3に対応すると考えられます。たとえば、’城之内’は「城の内側」を表していたのでしょう。
このような用法では漢字の「之」は中国でも日本でもほとんど同じ意味を保っていると思います。
中国語の”之”の興味ある用法
中国語の学習テキストの中でよく見かける”之”の用法のうち、上で列挙した助詞の用法の3,8,9について例を見て見ましょう。
3.~の~(~”之”+単音節方位詞の形で時間、場所、位置、範囲を限定する)
”确认之后联系您。”(’確認の後、あなたに連絡します。’)
この例の”之后”の部分は日本語では’の後’と訳せますのでとても日本語に似た表現になります。
”百忙之中非常抱歉。”(’お忙しい中、すみません。’)
この例の”百忙之中”の部分を直訳すると’百の忙しさ(多忙)の中’となります。日本語の表現方法とかなり似ていてとても面白いと思います。
”在我们预料之中”(’我々の予想通り’)
この例の中国語の”预料”は’予想’のことです。”预料之中”は’予想の中’ということになります。これも日本語表現と妙に似ています。
8.~の中の一つ(人)(~”之一”の形で使う)
”其中之一”(’その中の一つ’)
この例はもはやそのままでほぼ日本語です。中国語をまったく勉強したことがない人でも意味が分かってしまうと思います。
”这是日本最大的公园之一。”(’これは日本で最も大きな公園の一つです。’)
この中国語の表現もとても日本語の表現と似通っています。
9.~分の~(~”分之”~の形で使う)
”百分之五十”(’100分の50、50%’)
このような分数の表現もほぼ日本語のようです。ちなみにこれは英語では、fifty hundredths ですから中国語や日本語とは表現方法がかなり違います。
”100分之1秒”(’100分の1秒’)
この例もそのままでほぼ日本語となります。
最後に
上で見てきたように「之」という漢字は中国では特に助詞として広く使われています。中国語の勉強を始めてまもなく、次のような「之」を含む中国語の表現に初めて遭遇したときは「ほぼそのまま日本語だ!」ということでとても驚きました。
”其中之一”(’その中の一つ’)
”百忙之中非常抱歉。”(’お忙しい中、すみません。’)
”三分之二”(’3分の2’)
そもそも中国語の基本語順はS+V+Oのように英語と同じですが、今日の記事で見てきたように句や語のレベルになると突然日本語に似てくるのは非常に不思議なことだと思います。
このあたりのことはまた別の記事で改めて考えて見たいと思います。
中国語は面白い!