はじめに
中国語の面白いところは、日本語に似ているようで似ていない、また似ていないようで似ているという微妙なところです。
このブログでは、私が学習していく中で気がついた中国語の面白いところをピックアップしてご紹介しています。
なおこれ以降、日本語は ’ (シングルクオート)で囲って、一方中国語は ”(ダブルクオート) で囲って区別して表すことにします。
中国語の外来語
中国には大昔から多くの言葉が海外から入ってきて中国語の一部として定着し人々に使われています。
私が中国語に関心を持ち始めた十数年前のことです。
中国語の文章の中に日本語と同じ意味の言葉が多数表れているのに気づきました。’経済’、’文明’、’判断’、’背景’、’情報’、’条件’などです。多くは2文字漢語でした。
これらの言葉はもちろん元々中国で生まれ、日本へ伝わってきて日本でも定着したのだろうと思っていました。
調べてみると、そうではなく、何と逆に日本語が中国へ伝わったものということが分かりました。
日本の明治維新後1900年代の初め頃に数万人におよぶ多くの中国人留学生が日本を訪れ日本語を通して西洋の言葉や概念を学んだそうです。当時日本では西洋文明を取り入れるため多くの西洋の新しい言葉や概念を中国語の造語法に則って2文字以上の漢字を使った和製漢語を作ったということです。
もともと中国では一文字漢字で言葉を作る方式が重んじられていましたが、一文字だと言葉の意味が緻密に詳細に規定できずとても西洋の新たな言葉や概念を正確に表すことができなかったため、日本人が作ったこれらの和製漢語が最終的に中国に紹介され定着していったようです。
このように中国に伝えられた日本語は約1,000語だといわれていますが、現代の社会・人文・科学関係の文章で使われる名詞などは約70%が伝えられた日本語が占めているといわれるほどです。またそれらの言葉の使用頻度はとても高いということです。
なお、この頃近代の西洋の言葉や概念を表す新造語だけでなく、その前から日本にあった言葉も一部合わせて中国に伝えられて広まったそうです。
中国へ伝わった日本語
いくつかの例を見て見ましょう。
1.日本人が西洋の言葉を意訳したもの
”断定”(’断定’)、”目的”(’目的’)、”民主”(’民主’)、”主观”(’主観’)
”客观”(’客観’)、”定义”(’定義’)、”信号”(’信号’)、”政府”(’政府’)
”商品”(’商品’)、”单位”(’単位’)など
2.日本人がすでにあった中国語の意味を改変したもの
”环境”(’環境’)、”经济”(’経済’)、”文明”(’文明’)、”文化”(’文化’)
”社会”(’社会’)、”革命”(’革命’)、”自由”(’自由’)、”计划”(’計画’)
”保险”(’保険’)など
3.昔から日本にあった日本語が伝わったもの
”内容”(’内容’)、”目标”(目標)、”场面”(’場面’)、”场合”(’場合’)
”便所”(’便所’)、”命令”(’命令’)など
4.その他(接尾語)
”自动化”(’自動化’)、”日本式”(’日本式’)、”大型”(’大型’)、”科学的”(’科学的’)などのように接尾語として広く使われる漢字
以上、これらの外来語としての和製漢語に関しては「中国が日本から輸入した和製漢語」(http://www.catv296.ne.jp/~t-homma/dd120404.htm)の情報をもとにさせていただきました。詳細はこちらをご参照ください。
このように予想以上のお馴染みの日本語が中国に伝えられて日々たくさん使われていることに驚きます。最近でもたとえば日本から伝わった”人气”(’人気’)、”料理”(’料理’)などの言葉が広く使われ始めています。
この事実は中国の人もほとんど気がついていないようです。また中国語を数年間学んでいる日本人にも確認しましたが、多くの人が初耳だと答えていました。
一番重要なポイントは、当時日本では西洋の新しい言葉や概念をたくさんの人々が苦労して知恵を出し合い、中国語の造語法に則って2文字以上の漢字で和製漢語を作ったということだと思います。
最近は日本では外来語はよくそのまま音訳してカタカナで翻訳されていますが、当時このような安易な翻訳をしていたなら日本語が中国に広く受け入れられることはまずあり得なかったでしょう。
当時の日本人の情熱、真面目さ、緻密さ、努力に感心させられます。
中国での外来語の受け入れ方
さて話をもどしまして、中国ではどのようにして外来語を受け入れて自国の言葉にしているかを見ていきたいと思います。
ざっくりと三つに分類すると音訳、意訳、そしてそれらの組み合わせになります。
1.音訳
音訳は元の外国語の発音に近くなるように漢字の読みを当てて作る方式です。基本的に漢字の意味はあきらめています。日本だとカタカナがあるのでとても簡単ですが中国語は漢字だけなので少し苦労するようです。
たとえば、”咖啡”(’コーヒー’)、”巧克力”(’チョコレート’)、”麦当劳”(’マクドナルド’)、”沙发”(’ソファー’)、”加拿大”(’カナダ’)などがあります。
あえてこれらの中国語の発音をカタカナで書いて見ると、、”咖啡”(’カーフェイ’)、”巧克力”(’チャオコリー’)、”麦当劳”(’マイダンラオ’)、”沙发”(’シャーファー’)、”加拿大”(’ジャーナーダー’)となります。まあまあ似ていると思います。
2.意訳
意訳は発音を似せることはあきらめてとにかく意味を近づけることに工夫をこらしています。たとえば、”便利店”(’コンビニ’)、”快餐”(’ファーストフード’)、”软件”(’ソフトウエア’)、”硬件”(’ハードウエア’)、”电脑”(’コンピューター’)、”超级市场”/”超市”(’スーパーマーケット’)などです。
3.音訳と意訳の組み合わせ
これには意訳の漢字と音訳の漢字を合わせたもの:”信用”+”卡”で”信用卡”(’クレジットカード’)、音訳の漢字と意訳の漢字を合わせたもの:”因特”+”网”で”因特网”(’インターネット’)などがあります。
最も中国の人々が工夫するものは言葉全体で音訳と意訳を同時に兼ね備えた訳語です。
いくつかの面白いあわせ業の例をご紹介します。
1.”可口可乐”(’コカコーラ’)発音は’カコウカーラ’
”可口”は口に合うという意味で”可乐”は楽しく喜ばしいという意味です。
2.”香波”(’シャンプー’)発音は’シャンボー’
”香波”は香りが波のように漂うという意味です。
3.”托福”(’TOFUL’)発音は’トゥフー’
試験で合格するように福をあずけるという意味です。
4.”迷你裙”(’ミニスカート’)発音は’メイニーチュン’
”迷你”はあなたを迷わす、”裙”はスカートの意味です。
5.”佳能”(’キヤノン’)発音は’ジャーノン’
美しく能力があるという意味です。
6.”宝矿力水特”(’ポカリスゥエット’)発音は’バオクアンリシュエイトゥ’
宝のミネラル、ちから、水の特別なものという意味です。
7.”黑客”(’ハッカー’)発音は’ヘイカー’
秘密で腹黒いお客という意味です。
8.”保龄球”(’ボーリング’)発音は’バオリンチョウ’
年齢を保つ球技という意味です。
9.”三得利”(’サントリー’)発音は’サンダリー’
三つの利益という意味です。
10.”奔驰”(’ベンツ’)発音は’ベンチイ’
疾走するという意味です。
11.”引得”(’インデックス’)発音は’インダー’
引いて得るという意味です。
最後に
中国語の外来語については、中国語が漢字だけから構成されているという宿命から生じる独特の苦労や工夫、素晴らしさ、そして面白さがあると思います。
それにしても最近の日本語の文章にカタカナ語が氾濫しているのは時代の流れということで仕方のないことなのでしょうか。
中国語は面白い!
コメント
最近日本人すらわからないカタカナが結構ありますね。
わかりやすく、面白い言葉知識のご紹介、ありがとうございます。
大変勉強になりました。