はじめに
中国語の面白いところは、日本語に似ているようで似ていない、また似ていないようで似ているという微妙なところです。
このブログでは、私が学習していく中で気がついた中国語の面白いところをピックアップしてご紹介しています。
なおこれ以降、日本語は ’ (シングルクオート)で囲って、一方中国語は ”(ダブルクオート) で囲って区別して表すことにします。
中国語の助詞”的”
中国語の助詞”的”は中国の文章にたくさん使われていて、出現頻度がかなり高い言葉となっています。たとえば、
”我的书”(’私の本’)、”北京的天气”(’北京の天気’)
のように中国語の”的”が日本語の’の’にほぼ相当します。
この助詞”的”の用法は大きく3つに分類できます。
- 定語(連体修飾語)のマーカー
- 「是~的」構文
- 語気助詞
この記事では、用法が日本語に似ている1のケースについて詳しく見ていきたいので、まず2と3のケースを先にごく簡単にふれておきます。
「是~的」構文
中国語の”是”と”的”を同時に使った次の例文を見てみましょう。
”他是坐飞机来的上海。”(’彼は飛行機で上海に来ました。’)
この「是~的」構文では”是”の後の”坐飞机”(’飛行機で’)という「手段」が強調されています。このようにすでに実現している事象の時間・場所・方式・手段・関与者などを強調する場合に使われます。
語気助詞
次の例文を見てみましょう。
”她会来的。”(’彼女は来るはずだ。’)
語気助詞としての”的”は文の最後に置かれて肯定・断定の語気を表します。よく”会”(’~のはずだ’)という副詞と一緒に使われます。
定語(連体修飾語)のマーカー
中国語の助詞”的”は意味を限定する連体修飾語を形成するマーカーとして使われます。中国語を勉強していない人でもよく見かける用法だと思います。
この用法はさらに細かく次の6つに分類することができます。
- 名詞+”的”+名詞
- 形容詞+”的”+名詞
- 人称代詞+”的”+名詞
- 数量詞+”的”+名詞
- 介詞句+”的”+名詞
- 動詞句+”的”+名詞
それでは日本語の対比とともに少し詳しく見てみたいと思います。
1.名詞+”的”+名詞
”今天的天气”(’今日の天気’)、”日文的书”(’日本語の本’)など多くの例があり、これらの”的”はそのまま日本語の’の’に訳しても大丈夫です。
この記事では中国語を勉強中の人がよく迷う「中国語で”的”を付けない」ケースをまとめてみたいと思います。
属性関係:”中国菜”(’中国料理’)、”丝绸衬衫”(’絹のシャツ’)、”纸盒子”(’紙箱’)
この属性関係の場合は日本語でも’の’が省かれて直接結合する例が多くあります。また”中国朋友”(’中国人の友人’)や”日本老师”(’日本人の先生’)のように日本語に訳すときに’の’だけでなく’人の’としなければならないケースもあります。
全体ー部分関係:”樱花”(’桜の花’)、”樱花树”(’桜の木’)、”苹果皮”(’りんごの皮’)、
”手指甲”(’手指の爪’)、”鸡骨”(’鶏の骨’)
この関係では中国語には”的”が付きませんが日本語では熟語でない限り’の’が必要です。
人・動物グループ専用物
”儿童服装”(’子供の服/子供服’)、”女鞋”(’女性の靴’)、 ”鸟巢”(’鳥の巣’)
この関係は、後ろの名詞が前のグループ専用のものだと限定しています。中国語には”的”が付きませんが日本語では’の’が付くことが多いです。
出身地
”北京人”(’北京の人’)、”东京人”(’東京の人/東京人’)、”本地人”(’この土地の人’)
出身地で限定する場合、中国語には”的”が付きませんが日本語では一般的には’の’が付きます。
日本でも最近では’関西人’や’東京人’などと時々聞きますが、’福岡人’、’横浜人’などは聞きません。この場合はやはり’福岡の人’、’横浜の人’となります。
職業など
”卡车司机”(’トラックの運転手/トラック運転手’)、”美国留学生”(’アメリカ人留学生’)、”大学老师”(’大学の先生/大学教師’)、”公司职员”(’会社の職員/会社職員’)
職業などを表現する場合、中国語には”的”が付きませんが日本語では’の’が付くものと付かないものが両方使われています。
2.形容詞+”的”+名詞
複音節の形容詞が修飾するか、1音節の形容詞が修飾するかで様子が違ってきます。
複音節の形容詞
”可爱的狗”(’可愛い犬’)、”具体(的)问题”(’具体的な問題’)、”地地道道的中国菜”(’正真正銘の中国料理’)、”十分高兴的事情”(’とてもうれしい事’)、”很有名的人”(’とても有名な人’)
これらのように中国語では普通は”的”が必要になります。日本語訳では’~な’、’の’など修飾語に応じて色々な表現になります。
1音節の形容詞
”好朋友”(’親友’)、”新书”(’新刊書/新しい本’)
この場合は”的”なしで直接結合するものが多くみられます。日本語では一般に形容詞の連体形’~い’+名詞として訳されます。
分量の形容詞”多”と”少”
”很多人”(’たくさんの人’)、”不少人”(’たくさんの人’)
中国語の”多”と”少”は副詞の”很”や”不”を付けてはじめて名詞を修飾できるようになります。普通は”的”なしで使われます。日本語では’~の’と訳されることもあります。
3.人称代詞+”的”+名詞
所有・帰属関係
”他的汽车”(’彼の車’)、”我的电脑”(’私のコンピューター’)
このような関係のときは”的”が必要になります。
”这是谁的? 她的。”(’これは誰の? 彼女のです。’)
このように文脈から明らかな場合は”的”の後の名詞は省略できます。
中国語”的”には日本語では’の’が対応します。
人間関係・所属組織を修飾
”我爸爸”(’私の父’)、”她朋友”(’彼女の友人’)、”我们公司”(’我々の会社’)
このような場合は”的”は省略されます。日本語では’の’で翻訳されます。
一つ興味深い話があります。次の日本文を見てください。
’母は毎朝太極拳をします。’
次の中国語訳は間違いです。
X ”妈妈每天早上打太极拳。”
正しくは、
○ ”我妈妈每天早上打太极拳。”
日本語では’母は~’とか’父は~’というように自分の母や父のことをそれだけで言えますが、中国語では必ず誰の母、父かということをはっきりと言う必要があるようです。
最初の文ですと、文頭の”妈妈”は呼びかけになり、’お母さん! 毎朝太極拳をしなさい。’のような意味にとられるかもしれません。
4.数量詞+”的”+名詞
”一张照片”(’一枚の写真’)
この場合は中国語の”的”は不要で、日本語では普通’の’が必要です。
5.介詞句+”的”+名詞
ここで中国語の介詞とは前置詞のようなものです。
”对他的第一印象怎么样?”(’彼の最初の印象はどうでしたか?’)
このように介詞句”对他”が定語(連体修飾語)になるときには”的”が必要になります。日本語では’の’と訳すことはまずありません。
6.動詞句+”的”+名詞
”昨天买的书”(’昨日買った本’)
このように動詞句”昨天买”が定語(連体修飾語)になるときには”的”が必要になります。日本語では’の’と訳すことはありません。
日本から中国へ渡った「的」
以上今まで中国語の助詞”的”について用法や日本語訳について見てきました。上ではまったくふれませんでしたが、もともと日本語の’的’が中国に伝わって、現在中国語の”的”の一種として使われているものがあります。
たとえば、科学的、絶対的、相対的、歴史的などです。
”他用科学的方法研究了那个。”(’彼は科学的方法でそれを研究した。’)
”美与丑、大与小都是相对的概念。”(’美と醜、大と小はどちらも相対的概念である。’)
ここでの中国語”科学的”や”相对的”の”的”は先ほどこの記事で見てきたように’の’と訳すのではなく、そのまま’的’と訳します。ここでの中国語の名詞句”科学的方法”や”相对的概念”はまさに全体でそのまま日本語となります。
もともと日本語から始まった定語(連体修飾語)を作るマーカーである’的’がなぜ中国で現在広く使われるマーカーの”的”とまったく同じ漢字になっているのでしょうか?
調べたことをもとに想像すると経緯は次のようであったと思われます。
明治以降日本では西洋の新しい言葉や概念をできるだけ適切な日本語に翻訳すべく努力していました。scientific’科学的’やhistoric’歴史的’などはどのように訳すかというときに、語尾の「-ic」に注目し、「-ic」に相当する適当な日本語の漢字(助詞)を探したのではないかと思われます。
そのとき定語のマーカーとして中国で広く使われていた”的”が用法としてぴったり合致すると判断し、結局同じ漢字である日本語の’的’を「-ic」に相当する助詞として採用したのではないでしょうか。
このようにこのマーカーを中国語のお作法に則って同じ漢字を使って作ったために、後に中国に伝えられたときにすんなりと広く受け入れられたのではないかと考えられます。
最後に
定語(連体修飾語)のマーカーとして、多くの場合中国語の”的”と日本語の’の’が対応していることは最近たくさんの中国人や日本人が知ることとなってきているようです。
最近中国の街中では「の」を含む日本語がそのままディスプレーされているお店などを見かけます。
日本語と中国語の距離がだんだんと近づいてきているようです。
中国語は面白い!