ANAがハワイ路線にA380を就航

はじめに

「ANAがハワイ路線にエアバスA380を就航」のニュースを初めて聞いたときは驚きました。

このブログではまずその背景として、世界の航空業界、特にエアバス社とボーイング社について少し触れておきたいと思います。

世界の航空宇宙産業

昔から世界の航空宇宙産業を圧倒的にリードしてきたのはアメリカ企業でした。皆さん一度はニュースなどで聞いたことがあるボーイング社、マクドネル・ダグラス社、ロッキード社などです。

航空機1機製作するのに最大300万点に及ぶ部品が必要だということです。自動車の場合は1台につき約3万点の部品だということですので、航空機の場合は桁違いにたくさんの部品が必要になります。そのため航空機産業は裾野が極めて広い巨大な産業です。

1916年創業のボーイング社が長い間民間旅客機の世界一のシェアを堅持していましたが、1970年からあらたに参入したエアバス社とそれ以降熾烈な世界一位争いを繰り広げています。

軍事的、外交政策的にも重要な航空機産業でアメリカの独占を阻止したく、1970年にフランスと西ドイツの航空機製造会社が国際的な企業連合として合同で設立したのがエアバス社です。後にスペインとイギリスの会社も参加しました。

1990年代後半頃までは圧倒的に世界の旅客機のシェアはボーイング社が占めていましたが、
1999年以降、エアバス社とボーイング社は毎年首位が入れ替わるほどの熾烈な競争になっています。

それぞれの会社の航空機の写真を挙げておきます。これらの写真はそれぞれの会社のホームページから抜粋しました。

2階建ての世界最大の旅客機 エアバスA380

ボーイング787ドリームライナー(部品の約1/3を日本の航空機関連会社から調達)

エアバス社とボーイング社の戦略の違い

現在世界の民間航空機のシェアはエアバス社とボーイング社の2社が80%以上を占めていますが、それぞれ戦略がかなり違っているようで、それが今後の旅客機の品揃えの差になっていくと思われます。

エアバス社の将来展望

エアバス社の将来展望は次のようであったと思われます。

これからはハブとハブを超大型旅客機で結び、各地のローカル空港にはハブから乗り換えて小型航空機で向かうことになる(ハブ&スポーク方式)。

国際間のハブとハブを結ぶフライトは10時間を越えるものとなるので、お客様にはそのフライト中も大いに楽しんでもらうために超大型機を飛ばし、その広い空間を活用した色々な便利な施設を作る。

そのような役割を担う目玉の航空機として新たに開発・製造されたのが世界最大の民間航空機エアバスA380です。旅客機を単なる移動手段と考えずにお客様が楽しめるラグジュアリーさと快適性を備えた空間にするという新たな潮流を起こそうと考えたようです。

2007年に運行を開始したA380はエコノミークラスで詰め込めば800席が確保できるほどの空間がありますが、上記の理由で席は500席程度におさめて残りの空間を個室仕様にしたり、シャワールームを作ったり、ラウンジや免税品ショーケース(大韓航空)を設置したりして活用しています。

下の写真はエミレーツ航空のA380紹介ホームページからの抜粋です。

     

個室感覚の席(ファーストクラス)     シャワースパ(ファーストクラス)

機内ラウンジ(ファーストクラス)

ボーイング社の将来展望

一方ボーイング社の将来展望は次のようだったと思われます。

将来はハブ空港で乗り換えてローカル空港に行くのではなく、ローカル空港同士を直接結ぶフライトがより伸びる(ポイント・ツー・ポイント方式)。

大型機に比べて小型機・中型機は機体の価格も安く、燃費もよく、整備など小回りがきくので航空会社により多く受け入れられる。また搭乗客にとっても、乗り換え無しの直行便は楽で、フライトが高頻度でたくさんあった方が柔軟に旅行計画も立てやすくなる。

超大型機ではなく中型・大型機が今後特にインド、アジア、中南米などで一層伸びていくと思われる。

そこでボーイング社はエアバス社に比べて中型機・大型機により重点をおいているようです。

最近の航空機需要動向

最近の傾向としてはハブ空港間を超大型機で結ぶハブ&スポーク方式よりは、ローカル空港同士をより小型の航空機で低燃費で効率よく、また高頻度で直行便で結ぶポイント・ツー・ポイント方式のほうが主流になってきているようです。

実際にエアバスA380は最初の頃はそれなりの受注がありましたが最近では受注がほとんどなくなってしまい、現在その行く末が懸念されているところのようです。

下の表はエアバス社がホームページで公開しているエアバスの2018年7月末の受注納品状況です。

一番右の欄がA380の実績データです。確定受注数331機の内142機がエミレーツ航空です。

2018年からは月3機の生産が1機に減産されているようで、さらに最新のニュースによるとある航空会社がすでに注文していたA380の一部を他の機種に切り替えたいというような要望を出しているとのことで、ますますA380の生産終了の可能性が現実味を帯びてきているように思えます。

ボーイング社とエアバス社の株価

上で書いたような状況を考えると次にそれぞれの会社の最近の株価の動向が気になります。

米中貿易摩擦などにより2018年秋からはじまる世界同時株安・乱高下の直前までの最近約2年間で比べた両社の株価の変化は次のとおりです。

インド、アジア、南米などを中心に世界的な航空機の需要増加にともない航空機産業は長期的に伸びてきているので、関連会社の株価はそれなりに上昇傾向にあるようです。

エアバス社がこの期間で約2.1倍になっているのに比べてボーイング社は約2.7倍に株価が上昇しています。また2019年2月時点での両社の配当率は、エアバス社が1.47%であるのに比べてボーイング社は2.02%となっています。

このように株式では、キャピタルゲインも配当もボーイング社の方が頑張っているようです。

ANAがハワイ路線にA380を就航

さてこの話題にもどりたいと思います。なぜ今回ANAがハワイ路線にエアバスA380を採用したのかを考えてみたいと思います。

ANAのメリット

日本からハワイへのフライトは航空会社約9社が参入し毎日約18便が成田、羽田、関空など各地から飛び立っていて、いわゆる「ドル箱路線」といわれている大人気の路線です。この路線の現在のシェアはJALが約32%でANAが約14%だといわれています。

昔からJALが圧倒的なシェアを誇っています。

なんとかしてシェアを伸ばしたいANAは今回世界最大の旅客機エアバスA380を3機ハワイ路線に投入したということです。

理由は次のようなことでしょうか。

  • 世界で話題の2階建ての世界最大の旅客機を投入することで良い意味での大きなインパクトを狙った(従来の各種キャンペーンとは影響のレベルが違う)
  • 航空機に搭乗した瞬間からハワイのラグジュアリーで優雅でゆったりとした雰囲気をかもし出したい
  • 片道7~8時間のフライト中、他の航空機よりかなり広い空間を最大限活用し、家族皆で退屈せずに楽しく時間を過ごせる環境を提供する

エアバス社のメリット

先ほど見てきたように、エアバス社はA380の行く末について困難を抱えているようです。

このANAのハワイ路線へのA380の採用が、A380の復活の一つのきっかけになればと思っているのでしょうか。ただし、わずかに3機ですのでその影響、効果は限られたものになるとは思いますが。

単なる憶測ですが、エアバス社は今回のANAのA380の商談にあたり、1機約500億円とも言われているA380の価格やメインテナンス費用について、特別な「大出血サービス」を頑張ったのでしょうか。

最後に

このハワイ路線へのA380就航によってANAとエアバス社がウィンウィンの関係となり、「めでたし、めでたし」となるのでしょうか?

航空機やハワイに高い関心をもっている人は、この動向からしばらく目が離せないでしょう。

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