花はなぜ美しいのか

はじめに

花はなぜ美しいのか?

人はなぜ花を美しいと感じるのか?

この問いかけに対する答えは色々な人が様々な観点から試みているようですがまだ十分に納得できる決定打はないようです。考えれば考えるほど簡単なようで実は難しい問題だと思います。

この記事では自分なりに少し考えてみたいと思います。

まず人類と花との間には直接的な重要な関係はないものと考えます。それぞれが種の存続・繁栄のためにお互いに助け合っているとは考えにくいからです。

昆虫や動物と花

それではまず始めに、なぜ花がそのような姿・形・色・香りになっているのかを探ってみたいと思います。

種子植物はおしべから出る粉状の細胞である花粉がめしべの先端につくことにより受粉が行われて繁殖していきます。そこで昆虫や動物が効率よく花粉を花のめしべに運んでくれることが非常に重要になってきます。

植物は昆虫や動物に対して花をできるだけ目立たせなくてはなりません。そのために植物は花を葉や幹とはまったく違う姿・形・色にする必要があります。また独特な香りを出せば薄暗いところや離れた場所でも存在をアッピールできます。

花の姿・形はほとんどが円形になっていてその中心部分におしべとめしべがあるという配置です。円形ですと葉や幹とは形がとても違うので目立たせることができますし、一度花の一部にとまった昆虫が花の中心から遠くへ外れにくいというメリットがあるのではないでしょうか。

花を横から見ると多くは円錐型になっています。その円錐の一番深い位置にあるおしべとめしべがある中心部へは昆虫が容易にたどり着けると思われます。

真ん中に大事な生殖器官があるというのもいわばユニバーサルデザインで昆虫や動物に場所がとても分かりやすくなっているのだと思います。

次に花の色ですが、葉や幹から目立たせるために緑色、茶色は避けているのだと思われます。また影の色と同じ黒も避けたい色だと思います。そのため結果として、赤色、黄色、青色、白色、あるいはそれらが混ざった色が採用されているのではないでしょうか。

昆虫や動物はある程度好きな花の色が決まっているようです。ある説によると、ハエ・アブは白色~黄色、蜂は青色~赤紫、蛾は白、鳥は赤色~ピンク色だということだそうです。

そういえば昔、5月に青色・紫色の藤の花を見に行くとたくさんの蜂が蜜や花粉を取りに来ている光景によく遭遇しました。

蜂が青色・紫色が好きなのは当然、その蜜や花粉の味が好みなのだと思います。花の色や香りと蜜や花粉の味がセットになって関連付けられて昆虫や鳥に好まれていると考えられます。

このように太古の昔から昆虫や動物と花はお互いの種の存続・繁栄のためにお互いにより合致するように進化の過程ですり合わせをしてきて今の花の姿・形・色・香りがあるのだと思います。

ところで昆虫や動物は花を「美しい」と感じているのでしょうか? 多分「美しい」という感情はなく、単純に本能に従って「好き」「欲しい」ということではないでしょうか。

人と花

次に人と花の関係を考えて見たいと思います。

最初に書いたように、現在人と花の間には互いの種の存続・繁栄につながる相互依存関係はありません。

上に書いたように昆虫や動物と花との間の相互依存によって進化的に花の今の姿・形・色・香りがあるわけで、それをたまたま後から人が見て「美しい」と勝手に感じているといったほうが適切だと思います。

多くの人が花を「美しい」「好き」と感じるのはその他の理由からだと思われます。もっとも大きな理由は人が花を見たときに感じる「脳への快い刺激」ではないでしょうか。その快い刺激を促す要因としてはつぎのようなことが考えられます。

  1. 花の姿・形
  2. 花の色
  3. 花の香り
  4. 花が土地環境の良好さ・繁栄を示唆する
  5. 花がその植物にとって繁殖のために最も重要なかつ貴重なものという認識
  6. 花の命ははかなく短いという認識
  7. 人生の色々な場面で花を飾る・贈る・鑑賞するという習慣

1.花の姿・形

花の花びらの数は色々ですが、花は複数枚の花びらを使って形としては上で書いたように円形に近くなっています。

円は太古の昔から人にとって非常に見慣れた図形ではないのでしょうか。太陽や月、海岸や川の石、種など丸いものはたくさん目にします。

そこで人は円形(丸いもの)を見ると安心感、親しみ、やわらかさという「心地よい快感」を感じるのではないかと思われます。

2.花の色

人は赤色、黄色、青色などを見ると、赤色は情熱、活力、興奮、黄色は愉快、元気、希望、そして青色は、落ち着き、信頼感、爽快感など色々な感情が沸き起こるものです。これらの色による刺激は人の脳にとって「快い刺激」となっているのだと思います。

3.花の香り

明らかに美しくないものが良い香りを出していても人はあまりうれしくありませんが、美しいものが良い香りを出している場合は、良い香りの心地よい刺激でその美しさが倍増するのだと思われます。

4.花が土地環境の良好さ・繁栄を示唆する

人はそこにある植物が花をちゃんと咲かせているのを見ると、その土地の気候・環境が良いと判断し、またそれに続いて種をつけるので、穀物などの場合「実り」が期待できるといううれしい連想が働くのではないでしょうか。

5.花がその植物にとって繁殖のために最も重要なかつ貴重なものという認識

人は花が植物にとってとても大事なものであるということを知り、それにある種の価値を感じ、花(貴重なもの)を見ることが出来るというある種の喜びを感じるのではないでしょうか。

6.花の命ははかなく短いという認識

人は経験上花が短期間ですぐに枯れてしまうことを知ることになります。はかないものに対して人はある種の価値、貴重さを感じるものです。これも5と同じように、貴重なものを見ることにある種の快い感情をいだくものです。

7.人生の色々な場面で花を飾る・贈る・鑑賞するという習慣

パーティや式典で花を飾る、記念日や誕生日に花を贈る、入学や就職の4月に桜を鑑賞するなど花に人の気持ちを込めるという場面が多々あります。

このような習慣を通して、花を見たときに、花をなにか好いことと結びつける感情(うれしい愉快な感情)が自然と湧き上がってくるのではないでしょうか。

最後に

上に書いた7つの要因が複合化されて、結果として人は花を美しいと感じているのではないでしょうか。

上で書いた理由がもしも当たっていれば、人の高度な脳の機能が関係していることになるので、犬やネコ、猿、または人の赤ちゃんは花を見て「美しい」とは感じていないのではないかと思われます。人は大人になるにつれてますます花を美しく感じるようになっていくのでしょうか。

補足:日本人はなぜ桜の花が好きなのか

ところで日本人が桜が好きなことはよく知られています。なぜ桜に惹かれるのか、とても美しいと感じるのかもここで少し考えてみたいと思います。

そもそもなぜ人が花を美しく感じるかということは上で色々と要因を考えましたが、桜の花の場合はさらに追加の要因が関係していると思われます。主な追加要因としては次のようなものが考えられます。

  1. 桜の花は木全体に圧倒的なボリューム感で咲き誇る
  2. 日本の各地の桜はほとんどがソメイヨシノという一品種
  3. 花の色が淡いピンクでグラデーションになっている
  4. 葉が開く前に満開になる
  5. 桜の開花は日本では昔から稲の種まきの季節時計として使われてきた
  6. 入学など人生のおめでたいイベント時に開花する
  7. 花見という習慣
  8. 満開の期間が短い
  9. 日本各地で昔から積極的に土手などに植えられてきた
  10. 花の高さが人の目線より上

これらについて一つずつ見ていきたいと思います。

1.桜の花は木全体に圧倒的なボリューム感で咲き誇る

草花の花とは違って桜の場合は大きな桜の木全体でスケールの大きい花の集合という迫力を出しています。離れて見ても存在感は強いですし、枝の内側に入れば桜の花に囲まれたうれしい気分になります。

個別でも美しい花が、ものすごい数を揃えることで美しさが倍増するのだと思います。

2.日本の各地の桜はほとんどがソメイヨシノという一品種

ソメイヨシノが日本全国に広まり、狭い地域にたくさん並べられて植えられることも多々ありました。

一品種ということで開花の時期が同じであるために、春に一斉に相当数の桜の木が開花すると1と同じような意味でその地域が明るく華やかになるほどのボリューム感、迫力があり、美しさも増すことになります。

3.花の色が淡いピンクでグラデーションになっている

桃色・ピンクという色の心理効果は、幸せな優しい気持ちになる、愛らしく見える、安らぎに満ち足りた平穏・平和な気分になる、緊張をやわらげるなどといわれています。

ただしパッションピンクでは刺激が強すぎますが、ソメイヨシノの花のように淡いピンクですとまさに奥ゆかしい、柔らかな刺激となり、日本人好みになると思います。

また桜の花の色の桃色のグラデーションも自然な穏やかな気分にさせてくれる要因だと考えます。

4.葉が開く前に満開になる

ソメイヨシノは緑の葉が出る前に満開を迎えます。これはある意味邪魔なものがないまっさらな空間に花だけが咲き誇るという贅沢なお膳立てになっているといえます。

人は見るときに花だけに注目できるので美しさが損なわれることがないのでしょう。

5.桜の開花は日本では昔から稲の種まきの季節時計として使われてきた

桜の花の開花時期は他の花に比べて、毎年の気温の変化(暑い、寒いなど)によるずれが比較的少ないので稲の種まきの季節時計として重宝されてきたという説があります。

このように日本では昔から重宝されてきた桜の花ですので、人々はある種の畏敬の念、感謝の気持ちをいだき、桜を特別な貴重なものとして考えていたと思います。

このような気持ちが「桜の花が好き、美しい」という感情を誘発したとも考えられます。

6.入学など人生のおめでたいイベント時に開花する

日本では入学式など人生のおめでたいタイミングで桜の花が咲きます。そのためイベントと桜の花が相互に連想されることになっています。

大人になると、桜の花を見ると、おめでたい、うれしい気持ちが自然と思い出されてくるのではないでしょうか。

7.花見という習慣

日本ではかなりの人々が春には花見を楽しんでいると思われます。幼い頃から何度も何度も春に桜の花を見ていると、桜の花がとても身近なものとして考えられるようになってきます。

そこで親しみが湧き、「桜の花が好き、美しい」という感情になっているものと考えられます。

8.満開の期間が短い

桜は昔から「ぱっと咲いてぱっと散る」といわれているように、特に散り際が見事で、このようなことが桜の花の貴重性を高めていると思われます。これは夏の夜の花火の美しさとも共通する要因だと思われます。

9.日本各地で昔から積極的に土手などに植えられてきた

これは6とも関係しますが、日本中どこへいっても桜が生活圏のすぐそばにあり、簡単に花見を楽しむことができます。そのためより一層、桜の花が身近なもの、親しいものという思いが強くなったのだと考えられます。

なお、昔からとくに各地の川の土手によく桜が植えられてきたのは、花見で集まる多くの人が自然に土手を踏み固めて強化してくれることを目論んだのだという説もあります。

10.花の高さが人の目線より上

この要因はかなり個人的な見解ですが、古来より上の方にあるものは、高貴で、貴重で、穢れがなく、大切なものという判断が自然になされるのだと思います。たとえばお殿様など高貴な人は普通の人より高い位置に座ったりしていました。

桜の花は高さのある桜の木に咲くので、花は多くの場合人の目線より上にきます。花を見るときには人は見上げることになります。

この見上げて鑑賞するという動作が、自然に「高貴で貴重で穢れがないもの」を見るという連想を生んでいるのではないでしょうか。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする